Hiroko’s Selection Zela Margossian Quintet
Hiroko’s selection
Zela Margossian Quintet
現在の世界のジャズシーンには、フレッシュな人材を積極的にバックアップする組織がいくつも存在する。国をあげての大きな組織もあれば、女性主体の組織もあり、さまざまな国で多彩なアーティストを紹介するイベントが開催されている。
Oh!Jazz でも、そんな組織の一つであるシドニーのSIMA(シドニー・インプロビゼーション・ミュージック・アソシエーション)がキュレーションするライブを見ることができる。SIMA は1984年に結成された非営利団体で、多様でユニークなオーストラリアのジャズを紹介することに力を注ぎ、様々な切り口でイベントを催している。そんなSIMAの活動の中でも大々的に紹介しているフェスティバルが、International Women's Jazz Festival だ(以下IWJF)。
アメリカをはじめ北欧など各国で歴史的に開催されている女性のジャズフェスティバルだが、IWJFはオーストラリア有数の組織をあげて開催されていることから、オーストラリアのジャズシーンにおけるジェンダー・イコーリティーの意識の高さが窺える。
このフェスには多数のアーティストが出演し、企画としても音楽性も多様なものになっていて、例えば国内屈指の女性ビッグバンドPharosが、影響力を持つアメリカのサックス奏者、Lakecia Benjaminをゲストに迎えたステージや、若い作曲者をフィーチャーした楽曲を演奏するステージなども行われている。
伝統音楽を交えたジャズアレンジがとにかく洗練されていてモダンだ。
そんなでIWJFで、2017、2019、2020、2021年と出演を重ねるアーティストが、Zela Margossianだ。彼女のQuintetはシドニーを拠点に2018年にデビュー。2021年にはアメリカの名レーベルRopeadopeと契約し、近年世界的に注目を集めている。Margossianはアルメニアにルーツを持つピアニストで、伝統音楽を交えたジャズアレンジがとにかく洗練されていてモダンだ。Oh!Jazzのライブ演奏では、クラシックの要素を感じられる清らかな楽曲に、パーカッションとドラムの重層的なリズムが加わり、有機的な楽曲に変化していく流れをじっくりと味わうことができる。また、Margossianの演奏時の扇動力やリラックスした表情など、作品やPVではわからない等身大のリーダーの姿が感じ取れて、彼女の音楽も人柄の魅力も身近に感じることができた。
彼女の存在で、オーストラリアは様々なルーツを持つミュージシャンが活動しそれぞれのジャズが作られている場所で、ジェンダーだけでなくルーツにおいても多様で開かれた土壌が根付いているのだと、改めて気づかされた。
大塚広子は音楽ジャーナリスト、DJ、プロデューサー。